さらなる人財への投資で成長へ
エンゲージメント調査で1歩を踏み出した宝ホールディングス

宝ホールディングス
宝ホールディングス株式会社は2025年、前身となる寶酒造株式会社創業から100年を迎えます。これを機にさらなる成長の原動力となる人財への投資を掲げ、その第1歩として大規模なエンゲージメント調査に踏み切りました。手法として選んだのは、設問の自由度が高い「内製化」です。人的資本経営に取り組む企業が増え、その基礎資料となるエンゲージメント調査も盛んに行われています。ただ、実施方法によって成果はまちまちだといいます。イグニション・ポイントは、どのように宝ホールディングスの調査を支援したのでしょうか。

タレントマネジメント基盤を活用した独自のエンゲージメント調査へ

宝グループは、宝ホールディングス株式会社を持ち株会社に、宝酒造株式会社(国内事業)、宝酒造インターナショナルグループ(海外事業)、タカラバイオグループ(バイオ事業)からなる64社の企業グループです。

グループを束ねる宝ホールディングスは現在、前身となる寶酒造株式会社の創業から数えて100年となる2025年度(2026年3月期)に向けて、長期経営構想「TaKaRa Group Challenge for the 100th」を推進しています。構想は2020年4月を起点とし、6年間で目標の達成を目指すものであり、「宝グループ中期経営計画2025」(以下、中計)には、その具体的な行動計画が明記されています。

それが「ROIC経営を通じた、成長・強化領域への投資」を筆頭とする「5つの重点戦略」であり、その戦略にもとづく定量的目標が、中計には盛り込まれています。ここでフォーカスしている「ROIC」(投下資本利益率)は、多くの企業がいま「稼ぐ力」を表す指標として注目しているものです。国内外を問わず変化の著しい事業環境の中で、企業は事業の絶えざる捉え直しによる投資の選択と集中を迫られています。

宝グループにおいても、ROIC経営による企業成長を模索していますが、同グループがROIC経営の原動力に据えているのが「人財」です。このことは、5つの重点戦略の1つとして、人的資本・ITなど「無形資産」への投資のいっそうの強化を挙げていることからも明確です。

具体的なアクションも進んでいます。その1つが、「社員の現在位置」を把握するための同社初となる大規模なエンゲージメント調査です。

100年の節目とはいえ、宝ホールディングスはなぜこのタイミングで、本格的な社員のエンゲージメント調査に乗り出すことになったのでしょうか。

冒頭で紹介した宝グループの3つの主軸事業の中で、現在最も売上高が大きいのは、70年超の実績がある海外事業です。一方で、人口減少などから国内市場のシュリンクが避けられない今、グループ全体がさらなる成長を期すには、社員一人一人が秘める変革とチャレンジのマインドをいっそう高め、海外をはじめ新しい市場や領域に果敢に挑む必要があります。

そのため、「まずは社員の『現在位置』を確かめる必要があった」と明かすのは、今回の調査を主導した宝ホールディングス人事部副部長の二見哲郎氏です。

「宝ホールディングスは、90周年を機に国内外のグループ社員に『チャレンジの歴史』を発信・共有するため、『宝ホールディングス歴史記念館』を開館しました(2017年)。これまでの数々の苦難や失敗、そしてそれを乗り越える変革と挑戦による成長の軌跡を、次の世代につなぎたいという思いがそこにはありました。しかし、それからはや10年が経とうとしている今、グループは新しい局面に至り、社員の半数以上は祖業である寶酒造時代を記録や先輩から聞く話でしか知りません。同時に、事業や人財の多様性が増しており、ここで本格的なエンゲージメント調査を行い、グループの一体感醸成や目指すべき方向性の意識合わせの材料とすることが必要だと考えました」(二見氏)

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▲宝ホールディングス株式会社 人事部副部長 二見哲郎氏


タレントマネジメント基盤を使った内製型の調査で、より柔軟性がありシャープな分析に着手

ところで宝ホールディングスでは、今回のエンゲージメント調査に先立って、分散していた人事情報の一元化やデジタル活用による人事考課の効率化、ペーパーレスなどを目指し、タレントマネジメント基盤を導入していました。

当初からエンゲージメント調査を目的として導入したものではありませんでしたが、結果としてこの選択が、以後の継続的なエンゲージメント調査において大きな意味を持つこととなります。

今回、宝ホールディングスが導入したのは「カオナビ」というタレントマネジメント基盤です。冒頭で触れた中計を立案していた2022年夏ごろ、エンゲージメント調査の必要性が議論され、導入したてのタレントマネジメント基盤を活用して実行できないかということになったといいます。そのタイミングで、イグニション・ポイントに相談がありました。今回の支援を主導したコンサルティング事業本部 ワークデザインユニット責任者でパートナーの石橋誉は、このカオナビを調査のプラットフォームとしたことに対して、大きな合理性があったといいます。

「既製のエンゲージメント調査は、標準的な設問がプリセットされており、エンゲージメント調査の実施を容易にする一方で、自由度は限定的です。今回は「カオナビ」の社員アンケート機能を活用し、エンゲージメント調査を内製化することにより、自社の目的や課題に合わせた的確な設問を設計しました」(石橋)

さらに石橋は内製化のメリットについて、例を挙げて説明します。「また、エンゲージメント調査を内製化することにより、ローデータ(レポートやダッシュボードの形式に加工される前のデータ)を取得することが出来るようになります。ローデータを活用することにより、同じ社員の中でも、今後の活躍が期待されるハイパフォーマンス人財のエンゲージメントのレベルや、注目している複数の人財における特定の設問に対する反応など、より粒度の細かい分析が可能になります」(石橋)

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▲イグニション・ポイント コンサルティング事業本部 ワークデザインユニット
 パートナー 石橋誉


二見氏も、イグニション・ポイントの助言から調査の内製化に取り組んだことについて、「今回私たちは、『グローバル』や『TaKaRa Five Values*』に関わる独自の設問を盛り込みたいと考えていましたので、多様な分析が可能な内製型の調査は妥当な選択でした」と振り返ります。また、ローデータという資産が手に入るため、自社にある他の人事データとの照合やかけ合わせで、より深いインサイトが得られる可能性もあると期待を寄せます。

*TaKaRa Five Values=「信用が第一」「技術・品質主義」「チャレンジ精神」「多様な力の結集」「自分ごと化」からなる宝グループ共通の価値観。

今回石橋とともに支援に当たり、プロジェクトの方針策定やPM(プロジェクトマネジメント)を担当したコンサルティング事業本部 ワークデザインユニットマネージャーの久保田麻友は、二見氏の期待に対してこう応じます。

「宝ホールディングス様のエンゲージメント調査は、名寄せ可能な設計としており、柔軟かつシャープな分析が可能になっています。実際に、エンゲージメント調査の回答データを社員の属性や労働時間、パフォーマンスなど、他の多様な人事データと掛け合わせ、多角的に分析させていただきました」(久保田)

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▲イグニション・ポイント コンサルティング事業本部 ワークデザインユニット
 マネージャー 久保田麻友


もちろん、エンゲージメント調査の内製化により、自社特有の課題や目的にあった設問の設計が可能とはいえ、適切な調査設計や分析、インサイトの抽出と課題解決につながる打ち手の検討には、プロフェッショナルの伴走が欠かせません。

宝ホールディングスは、石橋をはじめとしたイグニション・ポイントのサポートを得ながら、内製化のメリットを最大に引き出して初のエンゲージメント調査に臨みました。その過程におけるイグニション・ポイントの取り組み姿勢について二見氏はこう評価します。

「石橋さんや久保田さんなど、イグニション・ポイントで関わってくださったメンバーは、ただエンゲージメント調査の専門家というだけでなく、私たちが大切にしてきたものや、これから向かおうとしている方向性を深く理解した上でプロジェクトに伴走してくれました。そうして1歩も2歩も間合いを詰めて取り組む姿勢があったからこそ、互いの信頼感の中で議論を深めることができ、より精度の高い調査やその後の分析・施策の検討につながったと思います」(二見氏)

浮かび上がったインサイトに対する施策、回り始めた人的投資のサイクル

初回となるエンゲージメント調査の対象となった社員は、宝ホールディングス、宝酒造、宝インターナショナルのおよそ1500人です。これまで同社で本格的なエンゲージメント調査を行ったことはなく、初めての取り組みになりました。

1回目の調査が実施されたのは、2023年3月のことです。イグニション・ポイントは、エンゲージメント調査の目的や人事課題仮説に基づく設問の設計~エンゲージメント調査の実施までを4カ月で支援しました。調査が宝ホールディングスにとって初めてであったことや調査の規模の大きさから考えると、かなりスピーディーな展開であり、二見氏は「一気に駆け抜けた」と振り返ります。

石橋は、この4カ月で特に心血を注いだ点を次のように語ります。

「初回は設問の設計もゼロからになりますので、時間をかけて慎重に行いました。特に今回の場合、調査のブレない軸、すなわち『北極星』は、『宝グループで働くことに意義を感じますか』という問いです。その回答を得るために、具体的にはどのような問いを投げかけるのがよいのか、設問構造の定義や設計に工夫を凝らしました。それに対して2カ月ほどを費やしました」(石橋)

定義や設計が終わると、次はカオナビ上での回答画面のつくり込みの作業が待っていました。久保田はスピードを上げるため、宝ホールディングスに一定期間詰めて集中的に準備を進めたと明かします。そしてパイロット版での検証を経て、すぐに対象の社員に回答を依頼、データの集計へと進んでいきました。

ここまでを4カ月で完了、その後1カ月半ほどをかけて、データの分析とレポート作成が進められました。調査からは、何が見えてきたのでしょうか。

二見氏は、どのような結果が出てくるのか分からなかったものの、おおよそのイメージも持っていました。実際の結果を見ると、それほど予想とずれてはいなかったものの、「想定していたことでも、定量的かつ客観的なデータで示されるインパクトは大きかった」と語ります。

こうして誰もが認識できる数値で可視化・共有されれば、今後同じ項目について「ポイントを改善するために必要な対策は何か」「前回の対策は結果に結びつかなかったため別の対策を試してみてもよいのではないか」などの議論のきっかけが生まれます。人事部はもとより工場や各事業部など、こうした分析が起点となって改善のための施策検討・実施と効果検証のサイクルが回りだすとしたら、調査の効果は計り知れません。

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「当社はどちらかというと慎重な組織風土であり、積極的に挑戦する組織風土への変革が必要であるという傾向が読み取られました。高品質な製品を提供する上で慎重な姿勢が求められてきたことも背景にありますが、これからは海外事業の拡大など、新しいことに挑戦する姿勢も求められると考えています。また、調査前から上がっていた『30代の社員のキャリア開発に課題があるのではないか』という仮説が裏づけられました」(二見氏)

調査の結果得られた2つのインサイトのうち後者について、イグニション・ポイントから他社にも多く見られる傾向であると聞いていたため過剰に反応することなく、「施策を打って改善すべき課題」の1つであると、冷静に受け止めることができたと二見氏はいいます。

こうしたインサイトから明確になった課題を改善するため、打ち手も用意されました。その1つが2024年秋より開始した社員参加型の新規事業開発プログラム「starTreasure(スタートレジャー)」です。社員自らが新規事業の必要性を認識した上で、日々の業務で得た知見を活かし、新しいビジネスチャンスを生み出す活動に取り組む、意識変革を狙った取り組みになります。また、30代を中心とした若手社員のキャリア開発を強化するべく、社員が自律的にキャリアを形成するリスキリングのサポートとして、社員の保有スキルと、自分がやりたい仕事に必要な知識やスキル、資格の見える化を進めるとともに、主体的な学びに対する学習支援施策を強化したと説明します。

一方で石橋は結果を受け、別の点に注目します。「設問は5点満点でしたが、平均4点台と、社員の皆さまが宝グループの一員であるということに大きな誇りを持っていることが分かり、今後に大きな手応えを感じました」(石橋)

また、久保田も「製造現場の社員の場合、給与や制度などで働きがいを感じる場合が一般的なのに対し、今回のサンプルでは、業務内容や自社に対する誇りなどが働きがいにつながっていると推測される結果が多く見られました」と、同グループの社員の帰属意識の高さに驚かされたといいます。

二見氏は、「企業風土など、私たちの中に深く根づいているものは簡単には変わりません。調査を重ねてスコアの変化を確認しながら、対策を打ち続けていくことになります」とし、今後も課題仮説とその検証・分析を経て、解決への道筋を模索する意気込みを次のように語ります。

「今回の調査で、私たちはようやく一歩を踏み出したにすぎません。これからもデータの一元化、より芯を突いた調査、貴重な資産であるローデータの活用を通して、これまで見えていなかったグループの特徴のあぶり出しを、イグニション・ポイントと取り組んでいきたいと思います」(二見氏)

宝ホールディングスのエンゲージメント調査は、その後2回目を終えました。今後そこから解決すべき課題を抽出して施策を展開、有効な人的投資を進めて変革と挑戦に対するグループの機運を高めていくことになります。

最後に石橋は、「エンゲージメント調査は、組織の健康診断のようなものであり、それ自体が目的ではありません。スコアの背景には健康を阻害する原因が潜んでいることをあぶりだしたにすぎません。エンゲージメントについても、人事制度やマネージメント、リーダーシップ、社内のコミュニケーションなど複合的な要素が関係しています。私たちイグニション・ポイントはそれらを解明し、原因を特定して解決へと導くケイパビリティを持っています」と、これからエンゲージメント調査に取り組もうとする企業に呼びかけました。

(記事の内容は2025年3月時点のものです)

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